教育のIT化は、東京都三鷹市など先進自治体でのモデル実験を踏まえながら取り組みが進められてきた。すでに学校へのインターネット普及率は80%を超えてきたが、今後はどのようなIT環境が求められているのか?三鷹市教育センターの大島克己センター長に意見を聞いた。
 ──現場から見て、教育のIT化が抱えている問題は何か?
大島
 学校にブロードバンドが普及したことで教育のIT化が終わったと考える向きもあるようだが、ITが教育にどのような効果があるのか、肝心な部分が検証されていない。教員のITスキル向上も、全教科を教える小学校ではリーダーとなる教員の養成で波及効果が表れてきたが、教科別に分かれた中学校では十分に機能しておらず、研修の見直しが必要となっている。さらに教員、職員室のIT化が全く進んでいないのも大きな問題だ。
 ──文部科学省からは「教員は地方公務員なので教員のIT化は総務省の管轄」という声も聞くが…。
大島
 それはおかしい。教員の給与は国庫負担が半分、都道府県が半分を負担しており、市区町村は支払っていない。そうした教員の身分を考えれば、基本的に国が補助しながら都道府県の主導で整備すべき、というのが市区町村共通の認識。ただ、教員もパソコンがなければ授業が進まない状況となってきており、三鷹市では独自に導入を進めたいと考えている。
 ──今後は地方自治体が主体的にIT化を推進していくべきなのか。
大島
 三鷹市も補助事業などを活用してIT環境を整えてきたし、他の自治体も地方交付税措置で支援されてきた。三鷹のパソコンもさすがに古くなって買い換えが必要になっているが、あとは地方自治体の自助努力で対応するしかないだろう。
 ──三鷹市が次に目指している教室のIT環境はどのようなものか。
大島
 各教室に50インチ程度の薄型テレビを設置し、それらを超高速LANで接続して地上デジタル放送を流すことができる環境を考えている。総務省でも実証実験を計画しており、三鷹市でも候補に名乗りを上げているところだ。
 これからは授業ごとに最適なIT環境を選ぶ時代になる。必ずしも教室にパソコンは必要ない。大型のプラズマテレビがあれば、オンデマンドでハイビジョン教育番組を流すことも、パソコンを接続してウェブ画面を表示することも可能なわけで、授業内容に応じて使い分ければ良い。
 このときに最も重要なインフラとなるのが、これまで整備が遅れ気味だった校内LANで、地上デジタル放送を流すのなら、最低でも30Mbpsの速度は必要だろう。
 さらに地上デジタル放送なら、家庭に学校のコンテンツを配信する場合も、B─CASのような制御技術を利用することも可能だし、データ放送を利用すれば簡単なドリル型コンテンツなら提供できる。パソコンは5年もすると陳腐化してしまうが、薄型テレビなら20年ぐらい持つだろうから経済的ではないか。
 ──三鷹市教育センターでは、日本教育工学振興会(JAPET)と共同で、定額料金でコンテンツを利用できる文科省のネットワーク配信コンテンツ活用推進事業を昨年度から3か年計画で始めている。
大島
 初年度25地域、2年目の今年度も9地域が参加して順調に利用が拡大している。最近では「文科省の補助がなくても独自負担で利用したい」という地域や私立学校が名乗りを上げているが、文科省が指定地域以外の利用をまだ認めていないのでお断りしている状況だ。サーバーの負荷などを心配しているのだろうが、ぜひ利用拡大を認めてほしい。
 さらに初年度参加の学校からも「非常に効果があった」と高い評価を得たが、ほとんどの自治体で2年目に予算を削減したのは誤算だった。「十分に効果が出ているのなら予算を削減しても良いだろう」との発想で実施したようだが、それでは誰も良質なコンテンツを提供しなくなってしまう。大いに危惧すべき問題だ。

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