政府・与党医療改革協議会が今月1日にまとめた医療制度改革大綱で、遠隔医療とレセプト(診療報酬明細書)でIT化の推進が明記された。
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 これに先立って、日本医療情報学会(田中博会長)は厚生労働省保険局に電子カルテシステムなど診療情報のIT化に向けた「診療報酬制度改定に対する要望」を提出していたが、大綱の中で電子カルテについては触れられなかった。診療報酬引き下げ論議の中でインセンティブ導入は難しい問題ではあるが、電子カルテの普及に向けて実効性のある支援策が求められている。
 学会が厚労省に要望書を提出するのは今回が初の試みだった。今年5月に厚労省の標準的電子カルテ推進委員会(大江和彦座長=東大大学院医学系研究科教授)がまとめた最終報告で、標準的電子カルテの普及に向けて「経済的支援策等の措置」とインセンティブを導入する方向性が打ち出されていた。それを受ける形で学会と保健医療福祉情報システム工業会で要望のとりまとめを進めてきた。
 要望書では、米国の退役軍人局病院で全米にある170病院に電子カルテシステムとネットワークを導入した結果、医療サービスの質向上とともに、患者1人当たりの医療費を25%削減することに成功した事例を紹介。
 一方で、現在の診療報酬制度では、IT化推進による医療費削減が病院収入の減少につながるため、病院経営者がIT化の有用性を認めながらもシステム導入に踏み切れない現状を分析したうえで、診療報酬制度にIT化を促進するインセンティブの導入を求めた。
 要望は3点。第1に患者の入院時に診療録を管理する経費として点数加算を認めている「診療録管理体制加算」の点数を、診療録の標準化と内容の充実を前提に大幅に引き上げ、入院時だけでなく外来患者の診療録も月1回の加算を認める。
 第2に患者に過去の検査結果や処方歴などの情報を提供するときに加算される「診療情報提供料」では診療情報が、電子化され、かつ医療情報標準化推進協議会の指針に沿って標準化されている場合には点数を引き上げ、紙データなどその他の場合は引き下げる。
 第3に患者入院時に策定する入院診療計画において現行では計画を策定しない場合に減算される仕組みだが、逆に診療計画をIT化してチーム医療での情報共有が実現している場合は「入院診療計画IT化加算」を設けて加算する。いずれも診療記録の標準化と情報の共有化をインセンティブ付与の条件としている。
 「2001年に厚労省が“保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン”を策定して電子カルテの普及に乗り出すのは良かったが、その中でカルテの内容について言及しなかったことが最大の欠陥だった」。
 今回の要望書を策定した学会理事で、元日本アイ・ビー・エム(日本IBM)医療システム事業部長の豊田建HCI代表取締役は、これまでの電子カルテの普及施策をそう振り返る。
 もともと日本では診療録がメモを意味するカルテと呼ばれてきたことが示すように、記録としての書き方も標準化されていなかった。仕様が決まっていないものはITシステムで構築できないのは当然である。
 「診療録のあるべき姿がほとんど議論されていない現状で、いくら現場の医師の意見を尊重して電子カルテシステムを構築しても意味がない」。
 豊田氏はIT化で有名な亀田総合病院(千葉県鴨川市)の電子カルテシステムを構築した経歴をもつが、医療の世界でもIT化によるBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)の重要性を認識しているからだ。
 「医師も、紙の時代のやり方をなかなか変えたがらない」。
 グランドデザインの公表から丸4年が経過したが、電子カルテの普及に向けた基盤が整備されるのは、果たしていつになるのだろうか。

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