厚生労働省の標準的電子カルテ推進委員会(座長・大江和彦東京大学大学院医学系研究科教授)が、5月に最終報告を公表した。
 電子カルテの普及に向けて標準化が大きな鍵を握るとして注目されてきただけに、これをきっかけに本格普及に弾みが付くことも期待される。医療制度改革の議論が続くなかで、電子カルテの普及に向けた具体的なシナリオがどう描かれるのだろうか。
 厚労省が「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」で電子カルテの普及目標を掲げたのが2001年12月。06年度までに400床以上の病院の6割以上に、全診療所の6割り以上に普及させるとしていたが、今回の最終報告でも400床以上の病院で普及率11.7%(99施設=04年4月現在)、診療所で2.6%(02年10月医療施設静態調査から)との数字と、静岡県内の普及状況が示された。
 電子カルテ導入に熱心と言われる静岡県でも病院全体の普及率は1割を上回ったばかりで、当初掲げた目標の達成はかなり厳しくなっている状況ではある。
 一方で、病院関係者からは、03年8月に設置された委員会の最終報告が出るのを「待っている」との声も聞かれていた。一度導入した後から標準化に対応するのでは余分な投資と労力がかかるからだが、電子カルテの標準化が進んでいないことが導入しない理由にされてきた面もある。
 それだけに、今回の最終報告で示された“標準的電子カルテシステム”の導入を促進していくことが普及率アップに欠かせないが、ITベンダーの準備は整っているのか?
 「今回の最終報告だけでは“標準的電子カルテシステム”としての商品化は難しい」。
 電子カルテシステムでは、国内シェアトップを争う富士通とNECの担当者に聞くと、双方から同じ答えが返ってきた。最終報告では「医療用語・コードの標準マスターの普及と改善」や「異なるシステム間での相互性確保や新旧システム間での円滑なデータ移行」などの項で技術的要件も示されているが、それらに準拠すれば“標準的電子カルテシステム”がすぐに出来上がるものでもないというのである。
 ベンダーが注目するのは、最終報告に3度、登場してくる「インセンティブ」という言葉。委員会メンバーでもあった小川信雄NECシステムテクノロジー医療システム事業部長が「最終報告をまとめる段になって急に浮上してきた印象がある」と言うように、委員会の場でインセンティブの具体的な中身までが検討された様子はうかがえない。
 しかし、インセンティブを付与しようとすれば、対象システムが“標準的電子カルテシステム”であることを認定する必要が生じるわけで、インセンティブが具体的に決まらない段階では“標準的電子カルテシステム”として売り出すのはリスクが大きいのは確かだ。
 果たしてインセンティブの中身はどうなるのか?山路雄一富士通ヘルスケアソリューション事業本部副本部長は「病院間連携の促進のためにも電子紹介状にインセンティブを与えるのが適切では…」と予想する。
 その場合でも、インセンティブを施設間で情報共有できる「標準的な機能」に付与するのか、電子紹介状を発行・受理した「利用件数」に付与するのか。インセンティブを付与する先が、病院か、情報を提供した医師本人かでも効果は違うだろう。
 最終報告には「電子カルテシステムを導入ること自体が目的化されることは好ましいことではない」ことを明記した。医療制度改革の議論が続くなかで、最終報告では途中まであった「診療報酬上の措置等の方策」との文言が削られて「経済的支援策等の方策」との表現に止まったインセンティブをどのような形で導入できるかが、次の関門になっている。

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