厚生労働省が今年度からスタートした「標準的電子カルテに関する研究」の中間報告会がこのほど、日本医療情報学会と共同で開催され、電子カルテに関連して業務フローから個人情報保護まで幅広い課題の研究発表が行われた。
 「医療に関する透明性、効率性、質の向上に対する国民の権利意識の高まりに対して医療分野のIT利活用は重要な戦略となっている」―報告会の冒頭で挨拶した日本医療情報学会の田中博・東京医科歯科大学教授は、IT化への意気込みをそう表現した。研究発表の中でも医療事故に関連した取り組みが紹介され、最近、相次いで明るみに出ている医療事故への危機感もIT化を後押ししている印象だ。
 厚生労働省では、01年12月に「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を公表し、電子カルテの普及に向けた事業をスタートしている。しかし、標準化を含めて電子カルテ導入の基盤はまだ十分に整っていないのが実情だ。
 このため今年4月から標準的な電子カルテに関する研究をスタートするとともに、研究途中の成果も積極的に情報公開していくことで電子カルテ導入も促進していくことにした。11月には医療分野のIT化について厚生労働省と経済産業省が緊密に連携していくことが局長レベル会合でも合意され、セキュリティなどの分野で協力が進むという。
 報告会で発表された研究テーマは、表に示す12。発表順に並べたが、内容は非常に多岐に渡る。
 まず(1)では、電子カルテに必要な機能は何か、それらをどう連携するかなど情報モデルの検討が進められている。情報モデルの調査・分析を行うために「業務フローに対応する機能」「情報管理における法律的要求事項」「診療記録として必要な情報」など8つの視点を設定。この情報モデルや、国際標準HL7(医療情報交換のための標準規約)の動向を踏まえながら、電子カルテの機能モデルを開発していく。
 (5)では、現在の業務フローを分析した上で、電子カルテ導入によって実現できる新たな業務フローモデルの検討を進めており、(3)で、このモデルに基づいた電子カルテを開発するフレームワークの開発をめざしている。
 医療行為を支援する新しい機能を実現するための研究も進んでいる。(4)は、病名やプロブレムを診療行為の論拠や事由として関連付けたり、その変遷を記録したりする機能の実現をめざす。(6)は、処方時に薬の間違いなどをチェックできるように、通常ではありえない薬の組み合わせなどをデータベース化して警告を発することで処方設計ミスの低減を図るシステムだ。
 電子カルテに最も期待される情報の共有化や連携を支援する機能では、(8)で国際標準のHL7だけではカバーし切れず独自に設定したデータフォーマットなどを調査し、情報の相互運用が可能な環境を整備。(2)では、患者の医療画像データを含めて紹介状を電子化する研究や、院外薬局での調剤ミスなどを防止するため二次元バーコードを使って処方箋内容の情報提供をめざす。
「電子カルテシステムの導入効果をどう測定するか。医療の質向上をどのように評価するのか」―今回の報告会で多くの出席者から問題提起された課題だ。
 (10)で、医療分野でも注目の自己評価手法BSC(バランススコアカード)の研究が報告されたほか、質向上を測るクオリティインディケーターの必要性も提言された。電子カルテ導入による効果を国民に判りやすく示していくことがますます必要になっている。
【標準的電子カルテ関連研究報告会での発表テーマ】
1)標準的電子カルテに要求される基本機能の情報モデル
2)標準的電子カルテのための施設間診療情報交換
3)標準的電子カルテシステムのアーキテクチャー
4)病名変遷と病名―診察行為連関を実現する電子カルテ開発モデル
5)電子カルテ導入における標準的な業務フローモデル
6)電子カルテのための処方設計支援システム
7)高度総合診療施設における電子カルテの実用化と評価
8)相互運用に向けたHL7メッセージの開発・管理・流通手法
9)医療分野における電子署名の実用化
10)電子カルテシステムが医療、医療機関に与える効果と影響
11)諸外国における医療情報の標準化動向
12)保健医療福祉分野における個人情報保護の取り扱い

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