厚生労働省は、電子カルテシステムの普及に向けて、今年度から標準的電子カルテシステムの開発プロジェクトをスタートさせる。
 今年2月に日本医療情報学会が公表した「電子カルテの定義に関する日本医療学会の見解」に基づいて、コンポーネント化・モジュール化された標準的システムを06年度までに実用化する計画。医療機関がシステム導入しやすい環境を整えることで、保健医療分野のIT化に弾みをつけたい考えだ。
 同省は、電子カルテ、レセプト電算処理などの医療分野のIT化を推進するために01年12月に「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を策定。06年度までに電子カルテは全国の診療所の6割以上、400床以上の病院の6割以上に、レセプト電算処理システムは全国の病院レセプトの7割以上に普及をめざす数値目標も設定した。
 医療情報システムの標準化は、これまでに医療データ形式の標準化や各種医療情報システムの相互接続性の確保など、国際標準の動向を踏まえながら日本でも取り組みが進められていた。しかし、電子カルテシステムそのものは、システムの定義も不十分なまま、NEC、富士通など5、6社の大手ベンダーが独自仕様のシステムをバラバラに販売しているのが実情だった。
 同省の「医療提供体制の改革に関する検討チーム」が昨年8月に取りまとめた中間報告では、改革の方向性として次の3点が指摘された。?複数医療機関でのスムーズなデータ交換による連携や在宅・遠隔医療を提供するために医療におけるIT化を積極的に推進する?電子カルテシステムなどの導入促進に向けて支援措置を講じる?標準的電子カルテシステムの開発を進めるなど情報化のための基盤整備を推進する。
 今年2月、日本医療情報学会が電子カルテの定義をまとめ公開した。「通常の電子カルテ」と「ペーバーレス電子カルテ」に分けて定義をまとめており、オーダー通信システムおよびオーダー結果参照システムの位置付け、診療録を構成する情報の取り扱い、標準的なデータ形式やコードの使用、患者への情報提供の改善―などの要件が定められている。さらに電子カルテシステムにおけるコンポーネント化、マルチベンダー化、国際化の必要性も示された。
 標準的電子カルテシステムでは、電子カルテ構築に必要な機能をコンポーネントとして開発。病院の規模や専門、臨床科などの必要に応じてコンポーネントを組み合わせて、各病院が要求するシステムを容易に構築できる環境を整えるのが狙いだ。標準的システムといっても、コンポーネントそのものを標準化するわけではない。
 電子カルテシステムを構成するコンポーネントは、診療録などの狭義の電子カルテ、検査依頼と結果をやり取りするオーダーリングシステムのほかに、学術データベース、入院患者に治療経過などを説明するための退院時サマリー、画像情報システム(PACS)など様々。まずA社のオーダーリングシステムを導入し、2年後にB社の電子カルテ、その翌年にC社のPACSを導入しても、システム全体がキチンと連携して動作する基盤を確保しよう、というわけだ。
 「コンポーネント化・モジュール化が進めば、ベンチャー企業でも電子カルテシステムの開発に参入しやすくなる。ベンチャーらしいきめ細かな気配りで医療機関が使いやすいモジュールが提供されることが期待できる」(厚生労働省医政局研究開発振興課医療技術情報推進室・武末文男室長補佐)。
 コンポーネント化はITベンダー間の競争を促進し、中小ベンダーにビジネスチャンスを提供するという狙いもある。標準的電子カルテシステムの構築に向けて、今月中には、産・官・学・民によるプロジェクト推進体制も固まり、開発がスタートする予定だ。

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