厚生労働省は、医療保険の請求・審査業務の効率化をめざすレセプト(診療報酬明細書)電算処理システムの普及に向けて戦略の練り直しを進めている。
 すでに99年度には全国展開が完了しているレセプト電算処理システムだが、現在の利用率はわずかに0.4%。ITで先進的な取り組みをしている一部の医療機関が導入したのに止まっているからだ。
 現行の制度では、医療機関は診療報酬の一部を患者に自己負担してもらい、残りは保険審査機関に請求書とレセプトを添付して提出、その審査に基づいて支払い機関が支払う仕組み。レセプト電算処理システムは、医療機関から審査機関へのデータの受け渡しを、紙からFDなど磁気媒体に転換するのが狙いだ。
 しかし、現在ほとんどの医療機関でコンピューターが導入されているはず。なぜ、データの電子化が進まないのか。
 「病名や医療用語が医療機関ごとにバラバラで標準化されていなかったのが原因だ。このためコンピューターも病院独自のコード体系が使われている。現在、病院の9割、診療所の7割に医事会計システムが導入され、それとレセプトコンピューターも連動している。審査機関のレセプト電算処理システムに対応しようとすると、医事会計システムも全面的に見直す必要が生じてくる」(厚生労働省保険局保険課・秋吉立身主任システム管理専門官)。
 結果的に、医療機関のコンピューター投資に大きく影響するからだ。
 コード体系の標準化も一筋縄では進まない。医療用語は、それぞれの病院や大学の伝統と文化を背負っている面もあり、国際標準への対応という問題もある。
 現在、レセプト電算処理システムの傷病コードの見直し作業を進めているが、「システムを使いやすいように最大公約数的な体系への見直しで、“標準化”というわけではない」―微妙な言い回しではあるが、システム普及を最優先に見直しを進めようとの姿勢がうかがえる。
 傷病コードの見直しに加えて、今年10月には、レセプト電算処理システムに参加する場合に必要だった厚生労働大臣の承認を廃止して、規制を緩和。また、医療機関に加えて調剤薬局から提出される電子レセプトも受け入れられる体制を構築した。
 「現在、薬局の参加申し込みを受け付けているところだが、都内モデル薬局がまず参加することになるだろう。薬局の場合、チェーン展開している大手もあり、事務効率化のメリットを理解してもらいやすい」(秋吉氏)と、手応えを感じている。
 さらに、電子レセプトのオンライン請求についても、02年度に実証実験を実施する方向で、3億5900万円の予算要求を行っている。
 「イメージ的には、各機関の間に新たにオンラインセンターを設置して、そこを経由してデータのやり取りをする仕組みを考えている」。
 医療機関6、薬局2、保険者3の合計11機関が参加し、最も重要なセキュリティ対策を中心に実用化に向けた検証を進めていく。
 「現在、紙のレセプトでは、記載ミスなどの問題が発生した場合、そのまま医療機関に送り返されて、保険支払いが1カ月遅れる。オンライン請求では、データを自動検証して万一ミスがあってもすぐに返却して再請求できる仕組みも検討したい」という。
 日本医師会でも、レセプトの新しい算定ソフト「ORCA(オルカ)」を開発し、来年3月から本格運用する。これは、各医療機関が設置しているレセプトコンピューター向けの算定ソフトだ。
 しかし、厚生労働省のレセプト電算処理システムと「ORCA」は現時点では、ほとんど連携していないという。同じレセプトを一貫処理できる体制を構築するためには両者の協力が不可欠だろう。
 レセプトの電算処理が、医療機関、さらには被保険者にどのようなメリットをもたらすのか。それを明確に打ち出すことが、電子レセプト普及への大きな関門になりそうだ。

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