医療分野のIT化をなぜ推進するのか。
 厚生労働省がまとめた「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」には、「IT化で5年後に医療がどう変わる」というイメージが利用者の立場からわかり易く解説されている。
 例えば「医療機関を選択するときに役立つ情報やわかりやすい医療情報が入手できる」、「病院での待ち時間が短くなる」、「専門医への紹介がスムーズになる」など、いずれも利用者が強く期待しているものばかりだ。
 これらを実現するには、これまで情報の開示がなかなか進まなかった医療分野において、できるだけ多くの情報を「標準化」してオープンにし、「共有化」する必要がある。
 医療分野の情報の標準化作業は、大きく2つの方向で進められている。
 ひとつは、ネットワークを通じてEDI(電子データ交換)を実現するために不可欠な医療用語・コードなどデータの標準化。レセプト(診療報酬請求)電算処理システムのコードとの整合性を図る作業も、ここに含まれる。
 もう、ひとつは、オープンになった情報を利用者が判断するために必要な標準(基準)だ。標準的な診療方法などの情報をまとめたガイドラインを示すことで、利用者が医療情報を活用するための基盤を整備するのである。
 厚生労働省では、グランドデザインを具体化するため策定した「IT化推進のアクションプラン」で、医療用語・コードなどの標準化を2003年度末までに完成する方針を明記した。
 これまでに完成しているのは「病名」1万8805病名、「手術・処置名」1万209処置名、「臨床検査」5355検査など。現在は、「症状・診察所見」、「生理機能検査名・所見」、「歯科領域」などを作成中で、レセプト電算処理システムに使われる「傷病名マスター(コード)」の見直しは来年3月までに完了する予定だ。
 一方、標準的な診療方法のガイドラインをデータベース化したEBM(根拠に基づく医療)システムの開発も、2003年度を目指して進められている。これまでに主要な5疾患についてガイドラインが完成しているが、サービス開始までには20疾患のガイドラインを完成させる計画だ。
 情報の標準化・共有化が進むことによって、何が変わるだろうか。
 「利用者から選ばれる医療機関になろうとサービス競争が始まるだろう」(医政局研究開発振興課医療技術情報推進室・武末文男室長補佐)―医療に関する情報がオープンになれば、当然、利用者はその情報に基づいて医療機関への選別を強めることになる。
 医療機関の場合、医療サービスの価格競争を行うことは認められていないため、より高度な医療をめざすという形のサービス競争が展開されることになる。医師たちもそれぞれの得意分野を磨いて専門性を高める方向に動く。そうした専門性の高い医師たちを、ITを使ってネットワーク化することで、利用者はより満足度の高いサービスを受けられる―という好循環が生まれることが期待できるわけだ。
 すでに経済産業省が、26カ所の中核的な病院をネットワークで結んで、情報のやりとりを行う実証実験を40億円規模の予算と投じて実施した。厚生労働省ではこの成果を踏まえて、3カ所程度の病院に絞ってネットワーク化による効果の検証を行うプロジェクトを02年度予算で要求している。
 さらに、患者の診療情報がオープンになり、医療関係者が共有できるようになれば、医学研究の進歩に大きく寄与することも期待できる。
 臨床研究では、なるべく多くの臨床事例があることが望ましいが、こうした事例情報は医療機関の間ではほとんど共有化されていないと言われる。厚生労働省では、医療分野における個人情報保護ガイドラインの策定によって、診療情報をデータベース化し、研究などへの活用に道を開くことも具体的に検討していく考えだ。

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