厚生労働省が検討を進めてきた「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」がこのほどまとまり、同分野の情報化がいよいよ本格的に動き出す。
 「日本全体が、e-Japan計画に基づいてIT化を推進しようとしている今こそ、保健医療分野の情報化を進める最大のチャンス。今後2年でどこまで情報化の基盤を整備できるかが勝負だ」―医政局研究開発振興課医療技術情報推進室の武末文男室長補佐は、グランドデザインの実現に並々ならぬ意欲を見せる。
 今回策定されたグランドデザインは、今年九月に厚生労働省がまとめた「医療制度改革試案」の考え方に基づいている。21世紀の医療の目指すべき姿として?患者の選択の尊重と情報提供?質の高い効率的な医療提供体制?国民の安心のための基盤づくり―の3つの柱が打ち出された。情報化は?を中心にそれぞれの柱を実現するためのインフラとして位置付けられたのである。
 保健医療分野の情報化を実現するためのシステムとは具体的にどのようなものか。
[電子カルテシステム]
診療情報を電子化して保存更新するシステム。個人病院などでの単独使用から、医療機関内、さらに将来的には医療機関同士のネットワーク化・データベース化も視野に入れている。現状では普及率はまだ1.1%に止まっており、今後この分野だけで2兆円規模の投資が行われると見込まれている。
[レセプト電算処理システム]
診療報酬の請求を紙の診療報酬明細書(レセプト)ではなく、電子媒体に記録したレセプトで行うシステム。現状ではフロッピーディスクや光ディスクなどが使われているが、将来的にはオンライン請求も可能にする。現状では電子請求レセプトの比率は0.4%に止まっている。
[遠隔診療支援システム]
医療機関同士をネットワークで結び、専門医に診断を依頼する専門的診療支援や、医療機関と在宅の間での在宅療養支援などを行うシステム。
[オーダーリングシステム]
従来は紙の伝票でやり取りしていた検査や薬などの処方箋などの業務をオンライン化し、検査結果も検索・参照できるシステム。医事会計システムとも連携している。現在の普及率は31.1%。
 以上の4システムが、グランドデザインの中で定義している「医療情報システム」であるが、そのほか国民に対して重要な医療情報を提供するための2つのシステムがある。
[EBMシステム]
「根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine)」との考え方に基づいて、最新の医療情報に基づく最適な診療情報を疾患の種類別にデータベース化し、ネットワークで情報提供するシステム。
[医薬品総合情報ネットワーク]
医薬品の安全性、有効性、品質、患者負担などについて総合的に判断できるような情報を提供する。
 グランドデザインでは、今後5年後の目標を設定して医療情報システム構築を推進する方針を打ち出した。前半の2年間(2003年度まで)に、用語・コードなどの標準化、情報セキュリティの確立、個人情報の保護対策など情報化を推進していくための基盤整備を実施。後半の3年間で一気に普及を図るという戦略だ。
 そうした戦略を「情報システム構築工程表」としてまとめる一方、作業を進めていく上での役割分担も国、学会、医療界、産業界のそれぞれに分けて明記した。
 日本医師会では、医療分野でのIT化投資の規模を年間約2兆円、10年間で総額18兆円に達すると試算している。まさに未開拓の巨大市場が目を覚ますことになる。
 「グランドデザインにおいて、『システム導入に向けて、国が補助、融資、優遇税制、診療報酬での対応するべき』とのご指摘があるが、システム導入、維持経費についての医療施設の高額な費用負担についても、あらゆる政策手段を用いた支援を真剣に検討していくつもりだ。」(武末氏)
 医療制度改革で医療費の問題が議論されているこの時期に、“診療報酬”にまで言及したのは厚生労働省が本気で医療の情報化に取り組む決意表明と言えるだろう。

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