厚生労働省の所管でIT化が最も進んでいる分野は介護保険だろう。2000年4月の制度導入時には事務処理すべてを電子化できるよう各種コードやフォーマット類の標準化が図られており、運用開始後も介護保険請求は大半が磁気媒体もしくはインターネット経由で行われている。
 当初からIT化を想定して基盤整備が図られているため、介護保険証のICカード化への取り組みも着々と進んでいる。すでに今年3月には社団法人国民健康保険中央会に委託して研究を進めてきた「介護保険の給付の支払い方式に関する調査研究(介護保険ICカードシステム)」の報告書を取りまとめており、いよいよ実証実験へとステップアップする段階だ。
 「ちょうど実証実験を行って地方自治体を2カ所程度、募集しているところだ。11月中にも実験を行う自治体を決定したい」(老健局介護保険課・宮崎尚久課長補佐)。
 実証実験を行う地方自治体が決まれば、それに合わせてICカード対応システムの設計を今年度中に行い、02年度の早い段階でシステムを開発して実験に入る予定だ。
 IT戦略本部では、総務省が03年8月に導入することになっている住民基本台帳ICカードに、その他のサービスも相乗りするように調整を進めている。
 「介護保険も、住基カードに相乗りする予定だが、もし住基カードの発行が遅れるような場合は、介護保険単独でもサービスを開始できるように準備を進めている」。こと、ICカードに関しては、他のサービスに先行して推進しようという意欲も満々だ。
 介護保険分野でICカードを導入するメリットは何か。
 介護保険制度では、介護サービスを受ける被保険者、被保険者の介護プランを作成するケアマネージャーなどの居宅介護支援事業者、実際に介護を行うヘルパーなどの介護サービス事業者、審査・支払い機関など様々な人たちが関わってくる。被保険者の状況に応じて介護度を認定し、介護プランを作成し、実際のどのようなサービスを提供したのか―それらの情報をキチンと共有することが重要だ。
 調査研究報告書では、共有データベースにネットワークを通じてアクセスする方法と、ICカードにデータを蓄積する方法に2つが検討されてきたが、基盤整備やセキュリティ管理などの面でICカードの方が、実現性が高いと結論付けている。
 具体的な導入メリットとしては(1)被保険者の資格情報を記録することで、サービス事業者などが受給資格などを確認しやすい(2)介護保険の支給限度と利用実績を記録することでサービス提供現場で支給限度の残高を確認できる(3)ICカードに記録されたサービス実績に基づいて介護報酬の支払いができる(4)居宅介護支援事業者が介護サービス計画の実施状況を把握しやすい(5)被保険者の最新の健康状況を記録することで介護担当者が適切なサービスを提供しやすい(6)ICカードを決済ツールとして使うことで、サービス提供現場での現金の受け渡しが不要になる―などがある。
 介護ヘルパーにとっては、何軒も回ってサービス提供したあとに、事務所に戻ってサービス内容をデータ入力する作業が負担となっているという。ICカードを導入すれば、その場で直接データ入力することで負担を軽減できるメリットが期待できる。
また、介護報酬請求を、居宅介護支援事業者が審査支払い機関に報告するICカード上の給付実績記録に基づいて行えば、サービス事業者が報酬請求(レセプト)を発行する必要がなくなる可能性もあり、現在は翌々月払いとなっている報酬支払いの期間短縮も実現できそうだ。
 ICカードに記録する情報は、被保険者証記載情報、公費受給資格、減免情報、サービス利用票とサービス実績などで、最低でも13.5キロバイト程度の容量が必要と試算しており、総務省の住基カードに相乗りしない場合、1枚当たり1400円程度の費用負担をどうするかといった課題が残されている。

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