国土交通省は、公共事業分野のIT化を推進するCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の整備目標を示した「国土交通省CALS/ECアクションプログラム2005」(以下、プログラム)を策定し、公表した。電子入札や電子納品を通じてパソコンやブロードバンド網が普及し情報の電子化が進んだことから、今後はコスト縮減、業務の効率化に向けて「情報共有・連携」に取り組む。
 まず業務執行の全体最適化を図るために、現状の業務プロセスを可視化した「業務プロセスモデル(全体版)」を早期に作成することにしており、ITベンダーにとってプログラムの進ちょく状況に応じてCALS/EC関連ビジネスの再構築に迫られることになりそうだ。
◆発注者、受注者、ベンダーの全員が不幸になる電子納品制度
 「今回のプログラムは、10年前にCALS/ECを導入する時に目指した当初の理念にようやく立ち返ったと評価できる。今後、業務プロセスの改善をどう実現していくかがポイントだ」(日本土木工業協会・木内里美CALS/EC部会長=大成建設理事情報企画部長)―しばらく新しい動きがなかったCALS/ECの取り組みが再び大きく前進することになった。
 93年のゼネコン汚職事件の反省を踏まえ、米国生まれのCALS/ECを日本に導入することにしたのは95年のこと。「研究所でプロジェクトに着手した当時は業務プロセス全体を見直すという理念があった」が、現場レベルに導入する段階でその問題意識を共有できなかったとの印象は否めない。
 結果的に業務プロセスの最初と最後の部分だけを電子化しただけで、肝心の設計・施工・維持管理の部分は、業界内の利害対立もあって本格的な取り組みに踏み出せない状態に陥っていた。しかし、中途半端なIT化はかえって非効率な場合が多い。
 電子納品制度では、発注者側も納品されたCAD図面などを維持管理データとして活用できない。ゼネコンなどの受注者側も、紙の資料のほかに電子納品用のデータを作成するなど余計な業務負担が増える。
 一方で、ITベンダーは電子納品用のCADシステムが売れ、電子納品に対応できない中小業者向けに電子納品代行サービスという新しいビジネスも加わって潤ったように見えるが、自治体などの発注者向けビジネスではダンピング受注が横行するなど過当競争に苦しんできた。
 まさに「発注者、受注者、ITベンダーの全員が不幸になる状況が続いている」(オートデスク・福地良彦インフラストラクチャソリューション本部部長)わけで、抜本的な解決策が求められていた。
◆「情報共有・連携」と「業務プロセス改善」が重点に
 今回のプログラムは、97年度にスタートした「建設CALS/ECアクションプログラム」(04年度で終了)の後継となるもので、各種情報の電子化を中心に取り組んだ第1段階から、「情報共有・連携」と「業務プロセスの改善」に重点的に取り組む第2段階への進化を目指す。計画期間は05年度から07年度までの3年間として策定後も必要に応じて見直しを実施する。具体的には、入札契約、情報共有・連携、業務プロセスの改善、技術標準、国際交流・連携の5分野で、18の目標を設定し、工程表も作成した。
 「電子納品された成果物が維持管理のためのデータとして十分に活用できていなかったことから、情報共有・連携に重点を置いた」(国交省大臣官房技術調査課・滝本悦郎課長補佐)。これまで取り組んできた電子入札、電子納品ではCALS/EC導入の目的であるコスト縮減や業務効率化の成果を十分に示すことが出来なかっただけに、18目標のうち電子納品関連で過半数の10の目標を掲げて、目に見える成果を打ち出そうという作戦である。
 ただ、今回の目標設定は業務プロセスの全体最適化を実施する前段階で行われたもので、業務ごとの現状と次期参照モデルは示したものの、CALS/EC全体の理想モデルが示されていない。「本来、設計、施工の段階で発注者と受注者との間で図面などの情報共有が行われていれば、わざわざ電子納品用のデータを作成する必要もなく、電子納品制度そのものが不要になるはず」(木内部長)であるが、現時点では電子納品制度を将来的に不要にする方向で業務プロセス全体の見直しを進めるかどうかは不明だ。
 鍵を握るのは、現状の業務プロセスを可視化して作成する業務プロセスモデル(全体版)である。全国8の地方整備局と北海道開発局、同じ整備局でも建設、港湾、空港で業務プロセスが異なっていると言われる現状で、可視化モデルに基づいてどこまで業務プロセスの改善に踏み込むことができるのか。「(各地方整備局の)現場に対してCALS/ECを利用する具体的なメリットをどう打ち出していくか」(滝本課長補佐)と言うように、現場で使えるCALS/ECでなくては意味がない。
◆CALS/ECの動きに合わせて転換を図るITベンダー
 今回のプログラム策定は、ITベンダーに対してもビジネス戦略の転換を迫ることになる。これまでは電子入札と電子納品を軸にシステムやサービスの提供が行われてきたが、今後は情報共有・連携の需要が高まることは間違いない。
 「最近では、地方整備局でもプロジェクト管理(PM)ソフトをASPで利用するニーズが高まってきた」との手応えを感じているのは、NEC第1ソリューション事業本部事業戦略グループの丸山康隆シニアエキスパート。NECでは4年前に東北電力グループの東北インフォメーション・システムズを提供してPMソフト「工事監理官」のASPサービスがスタート。その後沖縄電力と中部電力の情報子会社でも同様のサービスを開始するなど他社に先行してきただけに今後も積極的な取り組みを進めていく考えだ。
 土木専用3次元CAD「オートデスク・シビル3D」をもつオートデスクが注目するのは、今回のプログラムに3次元情報の利用を促進する目標が新たに盛り込まれたこと。電子納品に対応したCADデータ交換標準の検定を行っているオープンCADフォーマット評議会には現在CADベンダー46社が参加しているが、3次元への移行で生き残り競争が一段と激しくなることも予想される。オートデスクでは、PMソフトの分野でも、従来製品のバズソーに加えて米コンストラクトウェアを買収して製品ラインの強化を進めている。
<キーワード=CALS/EC推進本部>
 国土交通省がCALS/ECを推進するために省内に設置した事務次官を本部長とする組織。従来は本部の下の幹事会に民間からの代表が入っておらず、CALS/ECユーザーである民間事業者との意見交換も、旧建設省系のCALS/EC研究会と旧運輸省系の港湾CALS検討体制に分かれたままだった。
 今回、官民の意見交換組織を一本化するとともに、幹事会にも民間代表が参加。今回設定した18の目標ごとにワーキンググループを設置して、進ちょく状況についてフォローアップする体制を整えた。今後のCALS/ECの動向を握る重要な役割を担う組織として注目されている。

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