公共工事の図面や書類などの成果を電子データで納入する電子納品が01年度から一部導入されてから丸2年が経過、04年度からは国土交通省の全ての直轄工事を対象に完全実施される。果たして電子納品は、順調に進んでいるのか。日本土木工業協会(土工協)がこのほど公表した電子納品に関するアンケート調査の結果からは、実際の工事現場での混乱も垣間見える。
 国土交通省が90年代から取り組んできたCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の構築は、電子入札と電子納品を柱に進められ、電子納品では工事資料の電子化によるデータの共有・再利用によって「ペーバーレス・省スペース化」「事業執行の効率化」「品質の向上」の実現をめざしている。すでに電子入札が03年4月から、電子納品も来年度から完全実施へ移行すると、当初の導入計画はほぼ達成される。
 国土交通省では、電子納品のために土木設計業務、CAD製図、地質調査、デジタル写真管理、測量など9つの要領・基準類と、運用や発注者・受注者間の事前協議のガイドラインを策定。大手建設会社で組織する土工協でも電子納品のガイドブックを作成して会員企業への啓蒙活動を展開してきた。そうした状況を踏まえて、昨年10月に土工協では電子納品の対象となった218現場で調査を実施、その結果を1月に開催された展示会・セミナー「CALS/ECメッセ2004」で紹介した。
 電子納品では、要領・基準類に基づいて具体的な成果物の仕様などを定めるための事前協議が不可欠だが、事前協議を「着工前に行った」のは回答数216件のうち46%。「工事がある程度進んでから」が37%で、事前協議を行っていない現場も15%あった。事前協議の内容も、回答数183件のうち、発注者の指示で仕様などが決まったのは28%。受注者側が主導で決めたのが40%で、「発注者自身が電子納品を十分に理解していない」との指摘もある。
 「情報の共有化」は電子納品の大きな目的だが、発注者と受注者の間でサーバを設置してネットワークで電子データ交換を行っていた現場は回答数214現場のうち14%にとどまった。電子メールの利用が28%、CD―Rなど記録メディアの受け渡しが24%で、データ交換・共有を行っていない現場も32%を占めた。
 「ペーバーレス化」もあまり進んでいないようだ。電子納品した成果物の検査のために、電子納品した書類をプリントアウトして紙でも提出することを求められた現場が6割を上回った(回答数109件)。電子データで作成した書類を紙に打ち出さずにパソコン上で検査した現場はわずか4%(同125件)。検査する側が画面上でのチェックに慣れていないためと考えられる。
 CAD図面の活用では、発注者が施工図などをCAD図面で用意して受注者に渡すケースも増えてきたが、発注者が用意したCAD図面が電子納品のCAD製図基準に準拠していないものが59%と過半数を占めた(回答数174件)。建設コンサルタント会社などが作成して納品したCAD図面がまだ基準に準拠できていないのかもしれない。
 電子納品に対する受注者側の評価はかなり厳しい結果となった。効率化のためのIT化も、全体の3分の1の現場から「余計な仕事が増えて困った」と評されるようでは意味がない。成果物を電子化して納入するだけでまだ精一杯というのが現状のようである。国土交通省では、2年ほど前から次世代CALS/ECの検討を進めているが、電子納品の本格的な利活用に向けて基盤整備を急ぐ必要がありそうだ。

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