電子入札システムの導入を巡って、地方自治体が困惑する事態が発生している。国土交通省が、神奈川県横須賀市とNTTコミュニケーションズが共同開発した独自システム(11月5号に掲載)に対する危機感から“横須賀方式”を問題視する姿勢を打ち出す一方、「システム乱立によるコスト増を回避する」という理由でシステム統一化が必要とのキャンペーンを展開。
 先に直轄工事を対象に運用を開始した“国土交通省方式”のシステムを導入するよう強く推奨し始めた。公共事業の補助金を握る国土交通省の意向だけに、地方自治体としても難しい対応に迫られそうだ。
 電子政府の柱の一つである電子入札システムは、国土交通省がCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)構築の一環として、日本建設情報総合センター(JACIC)に委託して自ら開発を進めてきた。11月13日には、国土交通省の直轄工事で初の電子入札が行われ、いよいよ実用化の段階に入った。
 国土交通省では、当初からCALS/ECを年間4万件の直轄工事だけでなく、年間40万件とも言われる地方自治体が発注する公共工事にも適用させたい考えで、すでに地方自治体への普及を促進するためのアクションプランも策定済み。地方自治体へシステム導入を指導する資格制度「CALSインストラクター制度」(主に役人、役人OBが資格対象)も今年9月に導入し、当然、地方自治体は“国土交通省方式”のシステムを導入するものと決めてかかっていた。
 ところが横須賀市が、98年から取り組んできた入札制度改革の一環として独自の電子入札システムを開発。国土交通省に先駆けて10月から本格導入してしまった。
 「国土交通省のシステムは、地方自治体レベルでは重過ぎて使いづらい」(ある地方自治体IT担当者)との声もあり、“横須賀方式”に対する自治体の関心が高まり出している。困った国土交通省では、こうした流れを食い止めるための対策を講じざるを得なくなった。
 今年7月以降の主な動きをまとめると、次のようになる。
▼7月24日、国土交通省、総務省に対して横須賀市の電子入札システムの問題点をまとめた文書を提出。
▼ 10月3日、日本建設業団体連合会など主要建設4団体が、国土交通省と総務省に電子入札システムに関する要望書を提出し、入札システムの乱立防止、認証方法の統一など要望。
▼ 10月10日、横須賀市が初の電子入札を実施。
▼ 10月中旬、国土交通省、総務省に対して横須賀市の電子入札システムの問題点を指摘する文書を再度、提出。
▼ 10月下旬、国土交通省、総務省との電子入札システムの統合化を進める意向を表明。
▼ 11月1日、自民党政務調査会、政府に対して電子政府に関する「緊急申し入れ」を行う。「特段の事情がない限り、既に開発されたシステムを活用し、システムの統一化・標準化を図る」ことを明記。
▼ 11月1日、国土交通省、電子入札システムの無償公開を発表。システム乱立の弊害を防止するためと説明。
▼11月13日、国土交通省中部地方整備局で、初の電子入札の開札を実施。
 国土交通省が問題視しているのは、横須賀方式では「システムの公正性」と「受注者の本人性」を担保できないのではないかということだ。それが担保されていなければ「会計法や地方自治法で定められている入札制度の法律に抵触する恐れがある」(国土交通省大臣官房技術調査課・十河修課長補佐)とまで言い切る。
 “国土交通省方式”の電子入札システムは、紙入札を前提としてきた現行法律にも忠実に適合することを第一に開発されており、「将来的にも、この方式以外に“入札の原則”を満足できるものはないだろう」と言う。
 横須賀市のシステム導入の方法にも疑問を呈する。「横須賀方式は、NTTコムに単独発注せざるを得ないが、国土交通省方式なら、電子入札コアシステム開発コンソーシアムに参加している複数のベンダーを競争入札させて購入できる」。公共調達の基本は入札であって、その方が安く購入できるというわけだ。
 「別に横須賀市として国土交通省さんに逆らうつもりは全くない。ただ、コンソーシアムに参加しているベンダーに見積りを取ったら、あまりに高いので、慌てて横須賀市を視察したいという自治体さんの問い合わせが増えている」−横須賀市役所の担当者も困惑している状況だ。
 厳しい地方財政状況のなかで、横須賀市としてはいかに競争が活発化する入札制度へと改革し、それを効率的にサポートする費用の安い電子入札システムを実現するかに主眼を置いて開発を行ってきた。結果として、競争入札は活性化し、電子入札システムも初期投資1億2000万円、ランニングコスト年1000万円程度と費用を抑えることができた。もちろん、国土交通省が指摘するような問題はないと自信は持っているようだが、そもそも法律に適合させるのを目的にシステム開発を進めてきたわけではない。
 建設業界紙の建設通信新聞によると、国土交通省が試算している電子入札システムの導入費用は、市レベルで初期費用が約1億4000万円、ランニングコストが5年で約5億円。県と県内14市で統合して構築すると、バラバラで構築した場合の90億円に比べて、34億円で済むというが、横須賀方式に比べると、ランニングコストが圧倒的に高く、初期費用も割高だ。
 業務効率化のために導入するはずの電子入札システムとしては少々、説得力に欠けると言わざるを得ない。国土交通省方式に標準化して競争入札したとして、果たして活発な価格競争が起こるのかも、はなはだ疑問である。むしろ、電子入札が効率的に機能するように、入札制度のあり方を変えていくべきではないのか。
 果たして今後、国土交通省の思惑通りに、電子入札システムの標準化が進むのか。「当社は、システム開発を受託しただけでコメントする立場にはない。銀行のATMのように役所が仕様を決めてしまうというケースはこれまでもありますし…」―横須賀方式のシステムを開発したNTTコミュニケーションズの広報担当者は言葉少なだ。  

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