地方自治体で、行政サービスにITを活用する動きが急速に広がってきた。政府が策定したe-Japan計画に加えて、地方自治体でも独自の計画を策定して積極的にIT化を推進しているところも増えている。最初に紹介する横須賀市(神奈川県)の「電子入札システム」は、政府が進めているCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)に先行する形で本格稼動を実現した、まさに最新の行政モデルだ。
 “横須賀方式”とも呼べる新しい入札制度を導入して公共工事コストを大幅に削減する効果をあげている。財政悪化に直面するなか、地方分権への対応や住民サービスの向上を求められる地方自治体―。その具体的な取り組みをシリーズで紹介する。
 冷たい秋雨が降りしきる10月10日―。横須賀市役所6階のエレベーターホール脇の小部屋で、第1回の電子入札の開札が実施された。小部屋は、入札を管理する財務部契約課の事務スペースの一角をガラス張りの仕切りで簡単に区切ったもので、10畳程度の広さ。昨年6月から、すでに郵送による入札書類の受付を開始しているため応札者が一堂に集まる必要がなくなっており、小部屋には契約課の担当者1−2人と開札立会人3人が入るだけだ。
 今回の電子入札導入で変わったのは、郵送された入札書類を開封する作業が、端末からサーバに入札書類を読み取ってきて自動処理されるようになったこと。立会人が確認するためのディスプレーが3台設置された以外は、開札風景も全く変わらないという。
 「電子入札を導入するために、2年以上前から新しい入札制度を導入するなど準備を進めてきた。従来の入札制度を単に電子化したわけではない」―横須賀市契約課の佐藤清彦主幹は、そう胸を張る。
 公共工事の入札制度に対しては、様々な批判があるのはご存知の通り。とくに悪名高い“談合”をいかに防止するかは公共工事の発注者にとって共通の課題だ。談合は、入札参加者によって事前に落札予定者と落札価格を調整する行為。それを成立させるには、入札参加者と予定価格の2つの情報が事前に明らかになっている必要がある。
 電子入札は、全ての情報をネット上でやりとりすることで発注者を含めて入札参加者の事前接触を防ぐ効果がある。やり方次第では、業務効率アップだけでなく、談合防止の役割も期待できるわけだ。
 しかし、公共工事の多くに適用されている指名入札制度では、発注者が10社程度の入札参加者を指名する段階で、業者指名に何らかの恣意が働いたり、入札参加者リストが漏れてしまったりする可能性がある。これでは、いくら電子入札を導入しても、談合を防止することは不可能だ。
 横須賀市では、電子入札を視野に入れて、すでに98年から入札制度改革を進めてきた。まず、98年7月に実施したのが「条件付き一般競争入札制度」の導入だ。一定の入札参加条件を満たしていれば、誰でも入札に参加できる制度で、誰が入札に参加するかを把握しにくくする効果がある。同制度が導入されて、入札参加者数は以前の平均9社から20社前後と倍増した。
 99年4月からは、ホームページで発注工事情報の提供を開始。次いで入札書類の郵送受付(同年6月)、入札参加申請書のファックス受付(7月)、ホームページでの開札結果情報の提供(同)、全工事の契約を契約課に一本化(10月)という一連の施策を順次スタート。入札参加者は、発注者とも同業他社ともほとんど接触することなしに、狙いをつけた工事に札を入れることができるようになった。
 さらに、今年3月には、入札参加のための事前業者登録もインターネットで申請できるようにし、4月からは入札参加申請のインターネット受付も開始した。対象工事の入札参加要件と、入札参加申請の業者登録データをマッチングさせることで、入札参加資格があるかどうかをインターネット上で自動審査することが可能になった。
 電子入札システムは、認証システム、公証システム、入札処理システムの3つがそれぞれ独立した形で構成されている。投資金額は約1億2000万円だ。認証システムは、各業者に配布したフロッピーディスクに格納された認証キーを使って行う方式で、業者は無料で使うことができる。
 入札書類など全てのデータのやり取りは公証サーバを経由して行う仕組みだ。事業者が入札書類を送信する時に、非可逆性関数ハッシュを使って入札書類のハッシュ値を作成して公証サーバに送信。そのハッシュ値はインターネット上で事前に公開される。入札書類を開札する時には、入札担当者が公証サーバから入札書類を取得し、そのデータからハッシュ値を作成して、事前公開されたハッシュ値と照合して入札書類の原本性を担保する。
 入札処理システムは、入札書類を公証サーバから取得し、予定価格の計算や入札金額の並べ替えなどの処理を行い、落札業者を決める処理を行う。入札結果は、すぐにwwwサーバに転送され、ホームページに掲載される流れだ。
 電子入札による開札作業は、1件当たり10分もかからない。まず開札立会人3人が入室する。
 次いで横須賀方式の特徴のひとつである「くじ」引きによる予定価格の決定作業が行われる。対象工事の設計価格は事前に公表されており、予定価格はこの設計価格に、開札立会人が引いた「くじ」で決められた98.00―99.99%の数値を乗じて決定されるシステムだ。
 この乗数を入札処理システムに入力すれば、あとは自動的に入札価格が低い順番に1画面10業者ずつ表示。立会人にハッシュ値や入札参加資格を確認してもらって落札業者が決定される。
<標準化が課題>
 横須賀市では、条件付き一般競争入札をベースとした横須賀方式をスムーズに運用できることを最優先に、NTTコミュニケーションズと共同で電子入札システムを開発してきた。入札参加業者に配慮して認証システムも、国土交通省が推進しているICカード方式の採用を見送り、フロッピー方式とした。
 一方、国土交通省は、発注者によって電子入札システムがバラバラの方が建設業者への負担が重くなるとして、地方自治体に対して標準化を求める立場だ。
 「国土交通省からはCLAS/ECとの整合性と取るよう要請は来ている。しかし、横須賀市の電子入札システムは、一連の入札制度改革に適合させて構築したもの。システムの整合性を取るために “角を矯めて牛を殺す”といったことにはしたくない」(佐藤氏)と慎重な姿勢を見せる。
 現在はまだ、電子入札システムも稼動し始めたばかりで、12月の全面移行を経て、システムが安定した時点で、標準化などの検討に着手したい考えだ。
 ちなみに、横須賀方式の導入で、入札業者の価格競争が活発化。予定価格の85%に設定されている最低制限価格(施工品質の確保でこれ以上の安値で落札させない最低ライン)近くまで落札価格が低下した。横須賀市の年間工事発注予定額331億円(00年度実績)に対して、約42億円もの節約を実現するという大きな成果を生んでいる。

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