国土交通省は、公共事業のIT化推進の柱である電子入札制度を10月からスタートする。2004年度には国土交通省が発注する全公共事業約4万4000件、さらに2010年には地方自治体を含めた全ての公共事業約40万件での普及をめざしており、いよいよ巨大な建設ITマーケットが本格的に動き出す。
<CALS/ECとは?>
 公共事業のIT化を担うのが「CALS/EC」だ。日本語名称は「公共事業支援統合情報システム」。96年に基本構想がまとめられ、導入に向けた準備が進められてきた。
 最初にCLASという言葉が登場したのが、旧・建設省が95年5月に発足させた建設CALS/EC研究会。当時、CALSは、統合情報生産システムの略称から取った名称だったが、電子商取引を意味するECと結合。英語名称はその後何度か変更されて、現在は「Continuous Acquisition and Life-cycle Support」の略称で、日本語名称と直接関係はない。
 今年1月の国土交通省発足で、旧・運輸省系の港湾CALS、空港施設CALSと合体し、CLASの前に付いていた“建設”が取れて、「CALS/EC」とシンプルになった。
 旧・建設省は、大臣官房技術調査室(現・国土交通省大臣官房技術調査課)が中心になってCALS/EC導入に向けた施策を検討、外郭団体である財団法人・日本建設情報総合センター(JACIC)がシステム開発や標準化の具体的な作業を進めてきた。今年5月には国土交通省CLAS/EC推進本部(本部長・事務次官)が設置され、本格導入に向けた体制が整ったところだ。
 CALS/ECは、「電子納品」と「電子入札」の2本柱で構成されている。
 電子納品は、設計図面や施工記録報告書などの成果物を、電子記録媒体に収めて納品する制度。今年4月からAクラスとBクラスに位置する大手業者を対象に、3億円以上の工事を対象に導入された。
ただ、適用になった工事が完了しなければ報告書などの納品はできないため、「実際のところ、これまで電子納品されたという事例は聞いていない」(JACIC)。
 さらに設計図書の電子納品が、今年10月上旬に予定されているSXF形式のCAD実装規約のリリース待ちの状況で、電子納品が本格化するのも今年度後半からになりそうだ。
<電子入札の導入前夜>
 電子入札の導入まで3カ月を切って、準備作業も慌しくなってきた。
 今月16日には、国土交通省、JACIC、関係企業などが集まって、最後の実証テストを実施。この結果を踏まえて、まだ確定していない細かな手続きや手順などを決めて関係業界に通知する予定だ。
 今年度は、まず大規模工事を中心に100件で電子入札が実施される。入札に参加するのは、大手ゼネコンで構成する日本土木工業協会(会長・梅田貞夫・鹿島社長)の会員が中心となる見通しで、土工協では、今月27日からから全国9ヶ所で、電子入札と電子納品の導入に関するセミナー(会員限定)を開催して情報提供を行う予定だ。
 発注者側にとって電子入札は、業務の効率化に大きく寄与するというメリットがある。直轄工事の4万4000件に適用した場合で、年間260億円のコスト縮減を実現できると試算しており、入札の透明性・競争性の向上で、工事費そのものの縮減効果も見込める。
 一方で、受注者側にとっては、電子入札のメリットがまだ、はっきりと見えていないというのが実情だろう。公共工事の入札は、建設業者にとってまさに“飯のタネ”だけに電子入札にも対応せざるを得ない。しかし、「中小業者などの場合、電子認証用ICカードシステムの維持を含めてIT投資に見合うだけのメリットがあるかどうか」(大手ゼネコン幹部)―。そんな不安も聞こえてくる。
 最も懸念されるのは、国土交通省=JACICと、地方自治体などで、異なる電子入札システムが導入されるような事態だ。すでに電子入札を開始している神奈川県横須賀市の場合、認証システムなどでJACICと異なるシステムを運用しているという事例も出ている。
 国土交通省では、こうした事態を避けるため、地方自治体と、地方自治体向け電子入札システムの納入をめざしている主要ベンダーで構成する「電子入札コアシステム開発コンソーシアム」を10月に発足させる予定だ。すでにNECや富士通などの主要ベンダー9社が参加することになっており、「この場を通じて電子入札システムの標準化を推進していく」(JACIC)という。
 今後、電子入札の対象工事が拡大されていくのに伴って、中小建設業者のIT化をどのように促進するかという課題も出てくる。「パソコンとソフトとサポートとが一体化した中小業者向け専用システムが必要なるのではないか?」(大手ゼネコン幹部)。電子入札の本格普及に向けてまだまだ試行錯誤が続きそうだ。

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