全国初の電子投票が6月23日、岡山県新見市の市長選挙・市議会議員選挙で実施された。心配された混乱もほとんどなく、開票作業も電子投票分はわずか25分で終了。改めて集計作業の効率化など電子投票の有効性を示す結果となった。視察に訪れた岡山県選出の片山虎之助総務大臣も国政選挙への導入を視野に入れて検討を進めることを表明、新見市をキッカケに電子投票導入の気運も盛り上がってきた。その一方で、新見市に電子投票システムをレンタルした電子投票普及協業組合(EVS)の宮川隆義理事長がレンタル方式の導入を推進する総務省の対応を痛烈に批判するなど、選挙制度の見直しも含めて本格普及に向けて越えなければならない課題も多く浮上してきた。
◆選挙は混乱なく終了、開票作業はわずか25分
 岡山県新見市―。岡山市から岡山自動車道、中国自動車道を通って車で約1時間、人口2万5000人あまりの山あいの静かな田園都市が、「全国初の電子投票のまち」として一躍、脚光を浴びることになった。
 投票日当日は、ときおり小雨がパラついたものの、大半は曇りの穏やかな天気。新見市最大の文化施設「まなび広場にいみ」には、第1投票所と開票会場が設置され、その一角に設けられた臨時のプレスセンターは30社以上、200人以上の報道陣でごった返していた。
 隣接する建物では、電子投票システムをレンタルしたEVSが実際に使用している電子投票機を設置してデモンストレーションを実施。電子投票の導入を検討している広島市など自治体関係者や総務省などからも視察者が相次ぎ、まなび広場にいみの周辺は一日中、ザワついた雰囲気が続いた。
 今回の電子投票を簡単に振り返ってみよう。有権者約2万人(9%にあたる約1800人が不在者投票)に対して、投票所は市内43カ所に設置され、電子投票機は合計111台、予備機を含めると約150台が用意された。
 午前7時に投票所が開くと、システム立ち上げ時の運用ミスで2カ所の投票所でトラブルが発生。投票機そのものの故障も、午前8時半頃、午後1時頃に1台ずつ発生したが、予備機などで対応して、ほとんど混乱は生じなかった。午後8時には投票が終了し、途中で動かなくなった2台を含めて113台の投票機からデータを保存した記録媒体(コンパクトフラッシュ=CF)を抜き取って封印し、箱に入れて開票会場へ。
 午後9時25分、選挙長のあいさつのあと、開票作業がスタート。箱から記録媒体を取り出し、選挙立会人が封印を確認したあと、開封したCFの読み込み作業を開始、結果がプリントアウトされ、立会人などの確認作業を経て、電子投票分の結果発表が行われたのが午後9時50分。わずか25分での発表に、開票会場からは「アッケない」との声も。
 ただ、不在者投票分の集計は、従来通り手作業だったため、最終結果が出たのは、午後11時30分近くに。電子投票分でほぼ選挙の大勢が決まったあと、最終結果が出るまで1時間半以上も待たされたことで、電子投票と手作業とのスピードの違いが際立つことになった。
◆機材の導入コストが課題―選挙制度の見直しも必要
 電子投票に対する有権者の評価も、おおむね好意的だった。新見市での成功によって電子投票の普及に弾みが付いたのは確かだが、課題も決して少なくない。
 最初の関門は、導入費用だ。今回はEVSがレンタル方式250万円という破格の値段で落札して話題となったが、理由はともかく、ダンピング受注であることは間違いない。EVSの宮川理事長は「当初は買い取りによる電子投票システムの入札が、総務省の指導でレンタル方式に急きょ、変更された。総務省にレンタルの積算基準を明示するように求めたが、何ら根拠は示されなかった」と、安値受注せざるを得なかった背景を説明。今回の入札は、新見市限りの特別対応であることを明言している。
 確かにレンタル方式が成り立つのは、機械の使い回しが可能であるかどうかだ。新見市のあと、宮城県白石市や広島市などで電子投票の実施が検討されているが、今後、どれくらいの自治体が電子投票を導入するのかは不透明。また、各自治体のよって選挙実施日がバラバラであればレンタルの可能性もあるが、統一地方選挙や国政選挙では対応は難しいだろう。
 選挙関連機材大手で電子投票分野では富士通と提携したムサシでも「導入初期ではレンタル方式も可能かもしれないが、選挙機材は売り切りが基本。選択肢として可能性は検討していくが…」(篠沢康之広報室長)と、やはり消極的なニュアンスだ。国が第3者機関をつくって電子投票機材のレンタルを行うアイデアも浮上しているが、第3者機関の運営費や精密機械の保管料などを含めた費用を国が負担するケースと、買い取り方式で国が各自治体に補助金を出すケースで比較検討する必要があるだろう。
 新見市では電子投票機が2台故障したもの大きな混乱は起こらなかったが、みずほ問題が示すようにシステム障害が発生して再選挙となる可能性がないわけではない。EVSでは、三井住友海上火災保険と共同でシステム障害による再選挙費用を補償する保険を開発して対応したが、「公的機関でシステムの信頼性を評価する制度が必要ではないか」(宮川氏)という。いずれ国政選挙に電子投票が導入された場合、システム障害が発生するリスクを、民間企業が全て負担するとなると大企業以外にシステム受注が困難になる可能性が高く、何らかの対策が必要だろう。
 選挙制度そのものの見直しも重要な課題だ。現行制度では不在者投票の電子投票は認められていないが、不在者投票も電子化しなければ集計のメリットは半減してしまうことは、新見市でも見事に証明された。また、選挙の事務手続きも、自書式投票を前提にしている現行制度を電子投票にそのまま置き換えただけでは非常に煩雑で、電子化のメリットが十分に発揮できないとの指摘もある。将来的にオンラインによる票の集計も検討されているだけに、制度の抜本的な見直しは避けられないところだ。
 電子投票を導入するかどうかの最後の決断は、政治家に委ねられる。再選を果たした新見市の石垣正夫市長は、電子投票を町おこしの一環として積極的に導入したが、知名度の高い現職にとって選択式の電子投票より自書式の方が有利とも言われている。また、浮動票の多い大都市部で電子投票を導入した場合、投票率などにどのような影響が出るかも、まだ不透明だ。
 「新見市で成功したからと言って、電子投票が一気に普及するとは限らない」―電子投票ビジネスの今後の展開が読みきれない最大の理由はどうやら、ここにあるようだ。

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